多職種間の連携が不可欠
地域包括ケアを進めていくには、本人の心構えや住まい、生活支援・福祉サービスなどを土台としながら、必要な時に医療や介護などの専門的なサービスを受けられる仕組みが必要だ(図1)。
それを担う職種は医師、訪問看護師や歯科医師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、ケアマネジャー、ヘルパーなど多岐にわたり、様々な人の協力やサービスによって患者だけでなくその家族も支える(図2)。安心して在宅療養生活を送るには、患者や家族により近い立場で向き合える多様な職種の存在が不可欠であり、職種間連携による「すそ野」の広がりがより質の高い訪問サービスにつながる。
「土台」を支える訪問サービス
病気や障害を抱えながら在宅で療養生活を送る人が増える中、退院後の受け皿として看護師や歯科医師、薬剤師らの在宅訪問による支援が欠かせない。地域包括ケアの〝土台〟を支える存在だ。
在宅医療の一翼を担うのが「訪問看護」。各地域の「訪問看護ステーション」に所属する看護師は、療養上の世話から終末期の看護までをサポートする。
要介護5の母親(85)を松江市内の自宅で介護する女性(64)は週2回、訪問看護を利用する。この日は、契約先の花みずきナースステーション(同市国屋町)の看護師と入浴や排泄の介助などを行った。女性は「在宅介護は不安だったが、看護師の存在が精神的支えになった」と訪問看護の役割の大きさを実感している。
同ステーションの高橋京子所長は「適切なケアと説明で利用者の不安を取り除いてあげることが大切」と話す。島根県訪問看護ステーション協会では、年2回、県内9圏域ごとに情報交換の場を設けるなど、横のつながりを強化する。質の高いケアの提供に向け、訪問看護師の能力向上を図るのが狙いだ。
在宅療養を送るために、口の中の衛生管理や摂食・嚥えん下げリハビリテーションなどの口腔ケアも欠かせない。口腔環境が悪化すると感染症などになる可能性が高くなると指摘されており、疾病予防の観点からも欠くことのできない要素だ。
同県では国の基準を満たす訪問診療に対応する歯科医院の割合が38・7%(2012年)で、全国平均7・2%を大きく上回る全国1位。高齢化が進む中、潜在的なニーズの高さを数字が裏付ける。週に数回、近隣の高齢者施設などを往診する吉川歯科クリニック(同市古志原2丁目)の吉川浩郎院長は「高齢だと認知症や疾患で移動が難しい人も多く、訪問診療は一層求められる」と話す。
薬の飲み忘れや誤飲防止、服用後の管理・指導などを訪問して行う「訪問薬剤師」の役割も重要だ。多忙な在宅介護の現場では、薬の管理まで手が回らない実情がある。そこで、訪問薬剤師は飲み忘れなどのリスクを減らすため、複数の薬の「一包化」や副作用が出ているかどうかの情報を医師と共有するなど、介護する家族や医療スタッフの負担軽減にもつなげている。
島根県薬剤師会の郡山信宏理事は「薬剤師不足などを理由に、県内で訪問業務を本格的に実施するのは10件程度」との現状を踏まえ、「今後、人材育成と医療・福祉関係者への周知がより必要になっている」と指摘する。
質の高い在宅療養生活を保つには、家族や患者により近い立場で向き合える多様な職種の存在が不可欠であり、職種間連携による「すそ野」の広がりが鍵を握る。