住民ら行政と協働 拠点病院守る
2003年にスタートした新医師臨床研修制度によって大学医局からの地方病院への医師派遣数が激減、地方の医師不足が顕在化した。そうした中、地域医療の拠点となる病院を守るため住民らによる支援組織が相次ぎ結成された。
がんばれ雲南病院市民の会 (雲南市大東町大東1845)
事務局長 矢壁 敏宏さん(74)
雲南市大東町、雲南市立病院(当時・公立雲南総合病院)では8年間で医師の数が半減するなど危機的状況に陥った09年、地元の大東町地域自主組織連絡協議会などを主体とする病院の支援組織、「がんばれ雲南病院市民の会」(加藤一郎会長)が結成された。地域医療の核となる公立病院の疲弊を住民自身の問題ととらえ、かかりつけ医の重要性を啓発するほか、同年に住民からボランティアを募って支援活動の〝実動部隊〟となる「雲南市立病院ボランティアの会」(石川勝会長、49人)を組織、さまざまな支援活動を続けている。
市民の会が開いた住民対象の研修会(11年)は、看取りをテーマに病院と自宅の例を寸劇で表現、参加者が話し合う場を設け反響を呼んだ。また、患者や家族が医療従事者に感謝の気持ちを伝える「サンキューメッセージ」投入箱を病院内に設置、今も毎年30件ほど寄せられるという。本年度は県の補助を得て、同病院や雲南医師会監修の保存版「病院・かかりつけ医を受診するときの便利手帳」(A5サイズ、8ページ)を発行。雲南市内の全世帯に配布した。
ボランティアの会の活動は、毎日会員が病院の玄関回りで高齢者らの車いす介助を続けるほか、月1回は病院内の美化作業。定期的に病院周辺の草刈りや花壇の整備、病院祭やクリスマスコンサート、避難訓練などにも参加、会場設営など裏方として支える。病院運営に欠かせない存在となっている。
市民の会事務局長の矢壁敏宏さん(74)は「地域医療を守るためには住民が担う役割・責務を意識して行動しなければならない。その考え方が理解されてきつつある」と前置き、「住民が医療・行政と協働して地域医療を守っていきたい」と話している。
医療や介護サービスを組み合わせて提供する在宅医療
「晃(ひかり)さん、体の調子はどうですか」
訪れた理学療法士の声掛けに、口を大きく開いて笑顔を見せる栗原晃さん(33)。出雲市内の自宅で在宅医療を始めて丸3年が経過した。2008年7月に自身が運転する車で交通事故に遭い、手足や言葉が不自由になって以降、県立中央病院(出雲市姫原4丁目)や、交通事故専門の岡山療護センター(岡山市)に3年間入院した。だが、病室に母の一恵さん(63)と2人きり。一恵さんの「慣れた環境で、家族に囲まれながら過ごさせたい」との思いもあり、11年末に在宅医療に移行した。
診療、洗面介助、リハビリ、訪問入浴、こ口う腔くうケア…1日に多い時には10人弱の担当者が自宅を出入りする。晃さんにとって多くの人と接する機会は重要。実際、入院していた日々に比べてこの3年で笑顔が格段に増え、出せなかった声も出るようになった。「リラックスできてる証拠かな。やっぱり家がいいって思ってるんでしょうか」。一恵さんの声に、晃さんの表情が和らいだ。
在宅医療は、病気の予防や、病状の進行を遅らせる治療、看み取とりまでを、住み慣れた自宅で生活しながら取り組めるよう、医療や介護サービスを組み合わせて提供する。患者の自宅を定期的に訪問して病状を確認したり、夜間に駆けつけたりする訪問看護師のほか、理学療法士やヘルパー、かかりつけ医らが自宅を訪問し、必要な手当てや診療を行っている。
訪問看護師が所属する「訪問看護ステーション」は県内に64カ所あり、過去2年間で8カ所増えた。訪問看護に従事して20年になる訪問看護ステーションいずも(出雲市姫原1丁目)の安田和子所長(59)は、多くの家族をサポートしながら自宅での看取りに導いてきた経験を持っている。「看取り」には家族の相当な勇気がいるが、その分満足する家族を多く見て来たという。こうした家族の力を引き出すのも在宅医療従事者の大きな役割だと振り返り、「安心して在宅での療養生活を選べるよう、環境を整えていきたい」と身を引き締める。
ケアマネジャーも重要な役割を担う。ケアポートよしだ(雲南市吉田町深野)の錦織美由起施設長(52)=県介護支援専門員協会理事長=は「地域で暮らしていくなかで、医療と介護が連携・協働したサービスの提供は欠かせない」とする。「(在宅サービスは)特別なものではなく、自然な形で取り入れるもの。利用者の状況に応じてスムーズに取り入れられるよう、行政の力も借りながら環境を整えていかなければいけない」と指摘している。
慢性的な疾患を持つ患者の療養場所の一つとして期待される在宅医療。祖父の代から40年以上、地域の訪問診療に携わってきた浜田市蛭子町の沖田内科医院・沖田浩一医師(40)=消化器内科=は「在宅医療を安定して提供していくためには、提供する側の医師やケアマネジャー、訪問看護師など横の連携に加え、本人(患者)や家族の理解も必要不可欠だ」と説く。
一番に尊重する必要があるのは患者や家族の意思だ。「できる限り自宅で過ごしたい」と思ったときに応えるための体制づくりに向けて、現場の取り組みはさらに加速する。