訪問看護師が果たす役割
在宅で安心して暮らす支えに
有限会社ホットケアセンター (浜田市熱田町705番1号)
代表取締役 山根 優子さん(60)
「在宅で医療を受けたいと望む人は増えており、訪問看護師の必要性は高まっている」。浜田市熱田町を拠点にして訪問看護事業などを展開しているホットケアセンター代表取締役の山根優子さん(60)は強調する。
訪問看護師は、患者が日ごろ生活している自宅や福祉施設、有料老人ホームなどに足を運び、健康状態や薬の服用状況を管理するなど専門的なケアを施す。「患者が在宅で安心して暮らすための支えとなるのが、訪問看護師の役割」と山根代表は話す。主治医による「訪問看護指示書」に基づき、介護ヘルパーなどとも密接に連携を図り、患者と接する。
2005年に設立した同センターは当初、訪問看護師6人の態勢で約40人を対象にサービスを提供し、訪問件数は月間約300件だった。高齢化の進展や国の方針によるニーズの高まりに伴い、現在は訪問看護師を14人に増やして約150人に対応し、訪問件数は月間約1300件に上るなど事業を拡大している。
医療と介護をつなぎ家族に寄り添う
花みずきナースステーション (松江市国屋町)
訪問看護師 宍道 恭子さん(61)
訪問看護事業を行う松江市国屋町の花みずきナースステーションは、11人の訪問看護師と理学療法士、作業療法士の2人で1カ月延べ830件、常時140人近い在宅療養者を24時間体制で365日支援している。
訪問看護師の宍道恭子さん(61)は病院の看護師歴37年のベテラン。今の仕事に就いて3年目、1日に4、5軒回る。この日訪問した同市内のAさん(84)は、視覚障がいがありほぼ終日をベッドで過ごす。週1回の訪問看護と週4日のデイサービス、隔週のショートステイを利用する。息子のBさん(39)と二人暮らしで、Bさんも神経変性疾患と障がいがあり、週1回訪問看護を利用。互いに障がいを持ちながらの暮らしを多くのサービスが支える。
「お父さんの便が出たよ」。Bさんの報告に「良かったね。できるだけ水分を取るようにしてあげて」と宍道さん。Aさんを起こし「寒くない?」などと声を掛けながら検温や血圧、脈拍測定などで健康チェック、数値をノートに記入した。二人が日常服用する薬を個別の袋に入れる作業も。Bさんは「体調を把握して的確なアドバイスをもらえるので安心感がある」と感謝する。
宍道さんは「療養する方がどういった体調かを看るのが一番大事。安全に在宅で過ごせるように医療と介護をつなぐのが私の仕事。状態を知り、どういった生活をしていけばいいかを考える。患者や家族の笑顔と感謝の言葉が支えです」と話した。
ケアマネージャーの役割
利用者の思い大切にプラン策定
松江市社会福祉協議会宍道介護センター(居宅介護支援事業所)(松江市宍道町上来待213‐1)
管理者 青木 恵美子さん(50)
松江市社会福祉協議会宍道介護センター(松江市宍道町上来待)のケアマネジャー青木恵美子さん(50)は、同僚のケアマネジャー2人とともに宍道、玉湯両町内に住む要介護者90人が自立した日常生活を送るために必要なケアプラン(介護サービスの利用計画)の作成を担当、在宅医療との橋渡し役を務めている。
同じ敷地内にある松江市国民健康保険来待診療所の医師らから要介護者の療養上の注意点や必要となるサービス内容などを確認し、本人の意向や家族の希望も聞いて、生活スタイルに合った適切なサービス内容を介護事業所と調整している。
利用者の状況を日々把握するとともに、毎月1回は利用者宅を訪問し、本人や家族の話を聞いて現状を確認、介護サービス内容などを評価(モニタリング)するなどのマネジメントも行っている。また、随時開かれる医療機関や介護事業者などとの協議の場にも参加、「医療と介護の連携の重要性を実感させられる」(青木さん)という。
利用者の生きてきた人生、歴史を理解して、その人らしい生活を送ってもらうにはどういった支援が必要かを第一に考える、という青木さん。「本人と家族の思いを大事にし、住み慣れた地域でお互いが安心して生活できるようかかわっていきたい」と話す。
医師の役割
住民が支え合う地域づくりを
浜田市国民健康保険弥栄診療所 (浜田市弥栄町)
医師 阿部 顕治さん(60)
「お帰りなさい。病院はどうでしたか。早く帰ることができてよかったですね」肺炎のため国立病院機構浜田医療センター(浜田市浅井町)に緊急入院し、2週間ぶりに帰宅した浜田市弥栄町のIさん(97)に話し掛ける阿部顕治医師(60)。娘さんのYさん(62)には「食べやすいように味付けをしてあげてくださいね」。居合わせた訪問看護師には「食事や排泄の際、本人や介護者の負荷をなるべく減らすために、手足の拘縮予防のリハビリをお願いします」とアドバイスした。
阿部医師が勤務する浜田市国民健康保険弥栄診療所のある弥栄町は人口1376人、高齢化率46・3%、75歳以上の独居90人(2016年8月時点)という超高齢地区。診療所の受診者の大半が80、90代だ。
「終末期にどう寄り添い、支えるか。これが新たな地域の課題です」と阿部医師。在宅医療を選択した独居の高齢男性が行方不明になり、2日後、自宅近くで遺体で発見された苦い経験がある。
「予後予測が難しい上、本人の意思把握が困難なケースが多くなった。地域で終末期を支えていくためにも地域包括ケアの取り組みを、まちづくりにつなげていく必要がある」と指摘する。
これまでも住民を対象に「認知症になっても暮らし続けることができるために」をテーマにワークショップを開催したり、保健、医療、福祉スタッフで終末期ケアをめぐる寸劇を上演するなど「支え合う地域づくり」を進めてきた。
「困ったり、思いついたりしたら医療や介護に関わるスタッフ同士、よく話し合うことです」。 持ち前の〝フットワークと愛嬌〟で脳卒中対策など地域の医療課題に挑んできた阿部医師。在宅医療における終末期ケアの新たなモデルづくりにも力を入れる。
薬剤師の役割
患者宅に薬を配達し服薬指導も
株式会社トラスト 太陽薬局(松江市西川津町1204)
代表 郡山 信宏さん(52)
在宅療養をしている人の生活環境は千差万別で、心身の不調による薬の飲み忘れ、飲み間違いが心配され、時に命の危険をもたらすことさえある。そんなリスクを減らすため、松江市の薬剤師・郡山信宏さん(52)は薬局勤務時代の約10年前から在宅訪問支援に挑戦。2011年に独立し、市内に2店舗を構えながら施設、自宅を対象に訪問活動を続けている。
この日訪問した市北部の農村に住むAさん(83)は認知症の妻を施設に預けて一人暮らし。長身で頑健そうだが心筋梗塞の恐れを常に抱えており、自宅玄関脇の居室のベッド横には血圧計、電話の子機と連絡先を大書した紙が置いてあった。「また来たよ。顔分かる?」。明るく会話しながら郡山さんが複数の薬を一包にまとめて、ふすまに張った服薬カレンダーのポケットに入れ、服用の注意を念押しする。
Aさんは週3回のデイサービス利用に加え、2回のヘルパー訪問を受けているが、数日でも薬を飲み忘れれば発作再発のリスクが高まる。薬剤師の訪問支援には薬代のほか、介護保険適用の場合は「居宅療養管理指導費」が自宅療養で503円(施設療養で352円)、医療保険適用の場合は「在宅患者訪問薬剤管理指導料」が同650円(同300円)かかる。※1 「薬の配達にしては高いという誤解があるが、医師の処方を守ると同時に飲みやすく錠剤を粉砕したり、とろみを添加したりもする。患者さんに合わせたさまざまなケアを駆使する」と郡山さんは安全安心といった訪問によるメリットを強調する。
訪問認定は毎月4回までだが、医師へ定期的に状況報告するほか、うつ症状などの発生、変化をケアマネジャーに伝える地域医療のジョイント役も果たす。延べ約20人と契約、訪問する中で、終末期医療における患者や家族への専門的助言も経験してきた。
郡山さんによると、まだ医療・介護関係者の間でも薬剤師の在宅訪問支援に対する理解は十分でないとのことだが、日本薬剤師会は飲み残し薬剤費の9割解消、医師の負担軽減などを推進効果に挙げている。
※1…Aさんの場合
作業療法士の役割
工夫次第で階段も体力増強の場に
介護老人保健施設 寿生苑(出雲市上塩冶町2862‐1)
作業療法士 祝部 昭子さん(53)
施設などで行う通所リハビリと違い、訪問リハビリでは、患者の生活の場で具体的な指導ができる。本人には「あなたの家の階段なら、ここに手を掛けよう」。介護する家族には「まず本人に頑張ってもらって、お尻がここまで上がったら手を添えて」。
その家にある段差や階段での体の動きを計算し、本人が興味を持って取り組める訓練を考えるために、これまでの生活についてじっくり話もする。世話をする家族が80歳代で腕力が弱ければ、それでも可能なやり方を工夫する。家族の「介護力」を見極める力が、スタッフには必要なのだ。
「リハビリはやりがいのある仕事。資格があればいいのではなく、経験が大事なんです」と熱く話すのは介護老人保健施設「寿生苑」(出雲市上塩冶町)の作業療法士、祝部昭子さん(53)。理学療法士や作業療法士、言語聴覚士など専門家で作る「島根訪問リハビリテーションネットワーク」の代表として、研修会を開いて技術の向上に努め、情報交換を図っている。
目標は、人材育成と、「在宅でこんなにリハビリができると広く知ってもらうこと」。患者の生活に合わせたリハビリに取り組み、身体の機能回復に加え、社会参加も目指して、祝部さんたちは活動を続けている。