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【SANIN KEIZAI HEADLINE】 山陰経済最前線/活気づく中古住宅市場/デフレ色強まり価格下落/逆に業者間の 落札価格は高騰/買う側も「新築にはこだわらず」/全国の流通量46ー47万戸住宅団地内で物件目立つ

 景気悪化で冷え込みが厳しい新築住宅に代わり、雇用、所得不安が広がる消費者の選択肢として、中古住宅が台頭してきた。国の住宅政策の転換やリフォームブームも中古住宅の人気を押し上げている。住宅不況に泣いてきた不動産業者も新たな需要を取り込もうと、市場はにわかに活気づいてきた。山陰両県の中古住宅市場の動向を追った。◎吉田雅史

新築着工は100万戸割れ
 不動産流通経営協会(FRK)が、法務省の建物売買などのデータを基に算出した推計によると、2009年の中古住宅の流通量は46万戸となった。景気悪化の影響で、47万戸だった前年から減少したが、45年ぶりに100万戸を割り込み、78万戸となった新設住宅着工戸数と比較すれば、落ち込み幅の小ささが際立つ。

 また、新築と中古を合わせた住宅全体に占める中古住宅の流通比率は前年を6・8ポイント上回る36・8%となり、22・3%だった98年から上昇傾向が続いている。

 山陰両県でも、新設着工戸数の減少は顕著だ。09年は島根で前年比21・3%減の2631戸、鳥取で同29・7%減の2076戸。両県ともマンションの着工減が響いた形だが、鳥取は4千戸を超えていた05年から5年間で半減した。

 FRKは都道府県別の中古住宅流通量は把握しきれていないとしているが、山陰両県でも「中古の流通量は増えており、少子高齢化が進む中で物件数がさらに増加していくのは間違いない」と、地元関係者は口をそろえる。

鳥取県は前期比94%増
 中古物件が増加する一因に、不況がある。所得減でローンが払えなくなり、マイホームを自ら手放すケースに加え、差し押さえによる競売物件も右肩上がりを続けている。

 不動産競売流通協会(FKR)の調べでは、今年2月までの1年間の競売物件数は前期比で、島根が43・5%増の534件、鳥取が94・7%増の923件に急増。競売物件には築年数が浅く、立地条件に優れた「優良物件」が多いとされる。それが低価格で流通されるだけに、市場の注目度も高まる。

 「特に住宅団地で競売に出される物件が目立つようになった」と話すのは、全日本不動産協会島根県本部長で、競売歴が長い中村不動産(松江市西川津町)の中村正志代表。その一方で「物件が増えた以上に入札業者が増え、過当競争が起きている」とも指摘する。遠くは北海道などの県外業者のほか、中古専門部門を新設した新築メーカーなどが相次いで参入し、優良物件には10社以上が応札することもあるという。

 その結果、落札価格は高騰。一方で反比例するように売値は下落を続けている。松江市内の新興住宅地で、競売に掛けられた鉄筋コンクリート2階建て築15年の優良物件。落札した中村代表は、1800万円と控えめの価格設定で売り出す予定だ。リフォーム中の室内を見渡しながら、「値引き交渉が当たり前となり、優良物件でも2000万円を超えると、見向きもされなくなった」と嘆く。

 マンションの場合、中古物件の値崩れはさらに激しい。不況による販売不振で、新築がかつての中古に近い価格まで下落。中海圏域で不動産の賃貸・売買を手掛ける一栄不動産開発(株)(米子市茶町)の中田純一朗社長は「米子ではこの不況で中古マンションの相場は20~30%下がった」とし、逆に「ローン返済に窮しながら、売るに売れない人も少なくない」という。

古民家をリフォームして使う
 とはいえ、こうした中古市場の「デフレ」が、購入者層のすそ野拡大につながっているのは確か。その上で、将来のローン不安という経済的理由に加え、中古住宅に対する消費者の抵抗感が薄れ、ライフプランや価値観に変化が起きていることも市場拡大の一因とする見方は強い。

 松江市内で築36年の木造住宅を1000万円で購入した会社員男性(30)は「当然、価格の問題はあったが、中古とか新築とか特に意識しなかった」と話し、「家のために月々高いローンを払うより、子どものために使いたい」と、5月末に出産予定の妻(29)も賛同する。

 立地条件などで10件ほどの物件を見て回った。購入した住宅は、売り主が小まめにリフォームやメンテナンスをしていたため、水回りをはじめ外観からは想像できないほどきれいで、すぐに気に入ったという。売り主が退去後は外壁などを改修し、4月末には引き渡しの予定。「生活しながら、細かいリフォームも考えていきたい」と、夫婦でイメージを膨らます。

 仲介した「ハウスドゥ!」松江店(同市西津田5丁目)の多久和学店長は「純和風の古民家を安く購入して、自分たちで好きにリフォームしたいという声もある」と中古住宅へのニーズの高まりを実感する。

 不動産売買専門店でフランチャイズ網が全国に164店舗ある「ハウスドゥ!」の松江店は、「アイフルホーム」を手掛ける西日本ホーム(株)(松江市袖師町)が経営し、昨年10月末にオープンしたばかり。店内にはキッズスペースも設け、若いファミリー層をメーンターゲットに据えながら、キッチンやバスなども展示し、中古住宅から派生するリフォーム需要の取り込みも狙う。

 西日本ホームは、リフォーム事業部門として「増改築プラザ」も展開しており、中古住宅を探す消費者には、購入後のリフォームもセットで提案。中古住宅への参入は、既に飽和状態とも言われる新築市場の今後を見据えた戦略的な狙いがある。多久和店長は「リフォームブームに引っ張られて中古住宅への関心が高まり、中古住宅の流通が拡大すれば、それだけリフォームの発生率も高まる」と相乗効果に期待する。

行政支援も追い風に
 中古住宅市場には、国も新築を中心とした持ち家政策から、ストック重視へと方針転換しているほか、定住施策として既存住宅の活用を図る自治体の動きも追い風となる。

 UIターン者向けに「空き家バンク」などに取り組む例が増える中、松江市は昨年8月、全市域を対象に中古木造住宅の購入者に固定資産税相当額を上限5万円で最長5年間補助し、改修にも工事費用の一部を支援する制度を創設。さらに10年度からは中心市街地に限り、補助額の上乗せと非木造住宅や中古マンションへの対象拡大を始める。

 市によると、3月時点で改修・建て替えの申請は約20件に上り、反応は上々というが、中古住宅の活用を促していく上で課題もあるという。

 国が5年ごとに実施している08年の「住宅・土地統計調査」によると、松江市内の一戸建て空き家総数は推計で4730戸となり、このうち賃貸、売却用にもなっていない「その他」物件は約9割の4250戸に達している。市の独自調査でも所有者が不明だったり、年に数回しか使っていない家など空き家の定義自体が難しいケースもあり、流通促進には所有者側の意識と協力が欠かせない要素となる。

 一方、ファイナンシャルプランナーで不動産事情にも詳しいフェアラウンド(松江市古志原2丁目)の浜名毅行代表は、中古物件の購入後に欠陥が見つかるなどトラブルがあることも指摘し、「建築、設計、不動産の各業者が連携し、消費者が安心して購入できる流通の仕組み作りが必要」と訴える。また「家歴書」の普及など新築時から所有者が自ら住宅をメンテナンスし、資産価値を維持していくという意識が市場に根付くことになれば、本当の意味で中古市場が活性化に向かうという。

 国は10年度をめどに中古住宅の欠陥に対する新たな保険制度を導入する方針。中古住宅市場はまだ黎明(れいめい)期にあり、動向を見極めながら、業者間の競争は今後さらに激しさを増すことになりそうだ。

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