生涯を通じた健康で質の高い生活を送るためには、正しい生活習慣を身につけ、日ごろから生活習慣病予防に務めることが大切です。これまでの健康管理は、自分自身で食生活や運動習慣、休養に気を配るなど、個人に対する取り組みが中心でした。しかし、生活習慣病予防の増加・若年化やメンタルヘルスの問題など、個人への対策だけでは解決出来ない課題も多く、企業や地域社会全体で取り組む必要性が高まっています。
 いま、従業員の健康増進を図ることで生産性や企業カチを高める「健康経営」という考え方が全国的に注目を集めています。そこで、山陰中央新報社では、島根県や全国健康保険協会島根支部、県商工会議所連合会などの関係団体と協力し、「健康経営推進で健康長寿日本一へ しまね健康づくりキャンペーン」を展開します。

 健康経営セミナー(島根県、山陰中央新報社主催、全国健康保険協会=協会けんぽ=島根支部共催、アクサ生命保険特別協賛)が、9月21日、松江市の松江テルサで開かれました。自治医科大学客員教授の古井祐司氏、プロモーターズ・カンパニー(東京都)社長の石川アサ子氏、長岡塗装店(松江市)常務の古志野純子氏が講演。県内企業の役員など約100人が参加。企業の成長や価値を高める健康経営について、理解を深めました。

【講演:1】
社員への健康投資が企業の持続的な成長を促す

 現代の課題である超少子高齢化や経済成長の停滞は、企業にさまざまな変化をもたらしました。労働力人口の減少に伴い、就業者の平均年齢が40年で約7歳上昇しています。そのため健康リスクも2倍になり、生産性の損失も高まっています。実際に経営者も、従業員の体調不良は経営に影響を与えているとの実感があるという統計もあります。国も対策に乗り出しており、「経済財政運営と改革の基本方針2016」では、「企業による健康経営の取り組みとデータヘルスとの更なる連携を図る」との文言があります。
 「データヘルス」とは、協会けんぽなど医療保険者のもとに集まった健康医療情報を活用した健康づくりの取り組みです。例えば、システム系の職場は血圧がやや高いというデータがありますが、この場合の健康経営とは血圧計を設置して誰もが率先して測定できる雰囲気づくりをし、従業員同士がコミュニケーションをとってより健康的になろうとする職場をつくるということです。このように従業員の健康に投資すると、生産性の損失を抑え、個々自主性や創造性、モチベーションの上昇などをもたらし、強い会社へ成長できるのです。
 あるヘアサロンは20代が多い職場でしたが、従業員の突発的な欠勤が多く、全員が痩せ型で糖尿病でした。そのため昼食をとる時間を設け、飲み物をジュース類からお茶類へ変更した結果、血糖値が改善され、体調不良による欠勤や退職が減り、売り上げの増加につながったそうです。
 平均年齢が60歳のビル管理会社は、高齢化に合わせて勤務態勢の見直しを図り、夜勤を外注にすることにしました。そのことで余裕が生まれて丁寧な仕事が可能になり、従業員の意欲も上昇したため、顧客からの信頼が増し、新規の受注も増えました。  会社の現状を知って一人一人に寄り添い、持続可能な健康経営を実行し、その結果を評価することで、個々のモチベーションやロイヤルティーが高まり、会社の成長へとつながるのです。
 また健康経営は、その会社だけでなく地域へも良い影響をもたらします。静岡県の「健康マイレージ事業」は、健康診断の受診やスポーツ教室、ボランティアなどに参加した住民が特典を受けられる制度で、日常生活や就労の場で取り入れることができるため自然と健康づくりができます。参画することで健康経営が実践できるほか、企業のイメージアップにもつながり、県全体で健康増進を図ることが可能です。
 健康経営とは、健康を意識しながら従業員に寄り添っていくものです。データヘルスを活用した取り組みとその過程が会社と山陰の財産になっていくのです。今後、山陰で健康経営に取り組む企業がより増えていくことを期待しています。

【講演:2】
企業の利益を生み出す仕掛けと人づくり

 まずは、中小企業の現状を知っていきましょう。バブル経済崩壊から今日まで、働き方はさまざまに変化してきています。年功序列・終身雇用の時代から、現在は働き方そのものを省みようと改革が行われています。
 その中で、2000年代に入ってから若い世代に「うつ」が増えていきます。原因はさまざまですが、「成果主義によるプレッシャー」「雇用形態の多様化による緊張的人間関係」などが挙げられます。
 また、現在はどの企業も人材不足に悩まされています。しかし、大企業に比べ中小企業は「優秀な人材の確保、人材育成」に重きを置いていないことが分かっています。そのため、モチベーションの低下やミスマッチによる離職が多く、それを防ぐために人材の育成ができる社員や仕組みが求められています。
 それでは、どのような対策が必要か見ていきましょう。まず、「ワークエンゲージメント」な状態をつくる必要があります。ワークエンゲージメントとは、従業員の心の健康について示す概念で、仕事に対して「活力」「熱意」「没頭」の3つが揃って満たされている状態のことです。これをつくり出すためには、仕事への自信や、キャリア形成といった「個人資源」と、上司のマネジメントや職場環境など「組織資源」の活性化が必要です。
 具体的には、それらをつくり出す人事システムの構築と、相互コミュニケーションです。前者については、「何をどれだけやれば、どういうポジションに就けるか」の見える化や、その能力を持っていると判別される要件が書かれた「職務要件書」、会社がこなしてほしい職務内容と自分の能力をすりあわせるための「職務基準書」を作成し明言化することで、目標を定めやすく、モチベーションも上がります。また、公正な評価を与えることも重要です。
 評価要素もさまざまあり、能力やスキルに対しての「能力評価」や目標達成の度合いに応じた「業績評価」など、働き具合について一人一人正しく評価することで、個人としても会社としても成長をすることができます。

【講演:3】
健康経営で企業は必ず成長する

 20年前の当社は入退職の多い会社でした。そんな時、ベテラン社員から「若い社員が育たなければ、長岡塗装店はダメになる」と言われました。悔しい気持ちはありましたが、その通りだと気付き、目の前の問題点に沿う制度をつくりました。
 社員を定着させるためまず最初に、若者を育成するベテラン社員を65歳まで(現在70歳まで)就業できるように、高齢者継続雇用制度と若年者トライアル雇用制度を取り入れました。その後、高校卒業までの子1人につき5日の看護休暇を、年次有給休暇とは別に30分単位で取得可能とし、保育料の補助等子育て世代に向けた制度改革を行いました。
 併せて、介護のための始業・終業の繰り上げ・繰り下げや、国家資格や各種資格取得のために経費を補助するなど、不公平感のないよう実行し続けました。
 結果、若手社員の定着や資格者の増加、仕事の質の向上で各種表彰を受けるなど、個人の成長が会社の成長につながっています。70歳に近い社員もいますが、定期健康診断のみならず、3種類ある特殊健康診断を受診するため、健康に働いています。
 これで終わりということはなく、今後も多様な社員のライフステージに合わせ制度を改革し、社員と共に健康的な会社を意識し、経営を行っていきます。

主唱/山陰中央新報社、全国健康保険協会島根支部

特別協賛/アクサ生命保険

後援/島根県、島根県健康福祉部、島根県商工労働部、島根県商工会議所連合会、島根県商工会連合会、島根県中小企業団体中央会、島根経済同友会、島根県経営者協会、島根県医師会、島根県社会保険協会、島根県社会保険労務士会、島根労働局

企画・制作/山陰中央新報社ビジネスプロデュース局