生涯を通じた健康で質の高い生活を送るためには、正しい生活習慣を身につけ、日ごろから生活習慣病予防に務めることが大切です。これまでの健康管理は、自分自身で食生活や運動習慣、休養に気を配るなど、個人に対する取り組みが中心でした。しかし、生活習慣病予防の増加・若年化やメンタルヘルスの問題など、個人への対策だけでは解決出来ない課題も多く、企業や地域社会全体で取り組む必要性が高まっています。
 いま、従業員の健康増進を図ることで生産性や企業カチを高める「健康経営」という考え方が全国的に注目を集めています。そこで、山陰中央新報社では、島根県や全国健康保険協会島根支部、県商工会議所連合会などの関係団体と協力し、「健康経営推進で健康長寿日本一へ しまね健康づくりキャンペーン」を展開します。

地域経済の活性化と健康増進図る

 国は、高齢化社会における生活者ニーズの多様化・成熟化などに対応するため、これまでの医療・介護サービスに加え、潜在的な健康需要を満たす次世代ヘルスケア産業を創出することが必要としています。地域におけるヘルスケア産業の育成が、医療分野(企業・保険者による健康経営の推進)、介護分野(介護システムの充実・効率化)、地方創生(食・農や観光等の地域資源の活用)にも貢献するとし、全国各地で地域版ヘルスケア産業協議会の設置を進めています。
 島根県では、県商工労働部産業振興課が昨年、産業振興と雇用創出、健康長寿日本一への寄与を目的に島根県ヘルスケア産業推進協議会を立ち上げました。健康経営、生活支援と疾病・介護予防サービス、ヘルスツーリズムをテーマとした分科会を開催するなど、事業者の強みを生かした新たなヘルスケアビジネス創出の促進を図っています。
 しまね健康づくりキャンペーン2回目となる今回の特集では、島根県商工労働部の取り組みを紹介するとともに、安井克久部長に取り組みの意義や目的、健康経営の考え方などを聞きました。

新たなヘルスケア産業創出へ

 県商工労働部産業振興課が取り組む島根発ヘルスケアビジネス創出支援事業は、高齢化が進む中で健康をキーワードに、地域資源を活用して医療・福祉・農商工など多様な分野が連携した島根県ならではの先進的ヘルスケア産業を創出することで産業振興や雇用創出を図るのが狙いで、他の事業者の参考となるモデルを提供するのも目的の一つ。

県ヘルスケア産業推進協議会

 2015年3月に県ヘルスケア産業推進協議会のキックオフセミナーを開催。その後、東部、西部両地区でワーキングを各2回開いて意識の浸透を図り、同年7月に大学や高専などの教育機関、医師会や歯科医師会、薬剤師会、看護協会、社会福祉協議会、商工会議所連合会などの医療福祉、商工団体、地元金融機関、市町村や県が参加した協議会を設立した。
 協議会では分科会を設けており、セミナーや先進地視察を通じて事例を学び、ヘルスケアビジネスの事業化に向けた考え方の浸透を図ったほか、産官学や事業者間の連携につながる取り組みも実施している。
 16年度は、各事業所などの強みを生かした連携による新たなヘルスケアビジネスを生み出すため、ビジネスターゲットとして①健康経営②生活支援&疾病・介護予防サービス③ヘルスツーリズムをテーマに分科会を実施していく。

先進モデル構築支援事業

 県では、中小企業などが主体となり、健康をキーワードに地域資源を活用し、多様な分野が連携した島根県ならではの先進的なビジネスモデルの構築に向けた支援をしている。新しい発想によるビジネスモデルが次の事業展開のヒントとなり、ヘルスケア産業に発展していくことを狙いとしている。
 15年度は、応募のあった中から8件を事業採択した。このうち健康経営をテーマにしたビジネスモデル支援事業では▽しまね「健」「職」スタイル〜職場習慣から健康を創る(伸興サンライズ・松江市)▽栄養管理食品とマッサージを活用した出張福利厚生ビジネスモデルの創出(モルツウェル・松江市)の2件が事業採択されている。

本年度の取り組みについて

 今年4月以降には、県と全国健康保険協会(協会けんぽ)島根支部、山陰中央新報社が共同事業としてヘルス・マネジメント認定制度を創設、地元金融機関の協力を得て認定企業への貸出金利の優遇措置を設けるなどの取り組みもスタートするなど環境整備も進んだ。県産業振興課では、社員の健康を重要な経営資源ととらえ、生産性向上を図る企業へアプローチをさらに促進したいとしている。
 本年度の取り組みは、ヘルスケア産業への理解を広げるためのセミナーや先進地視察、異業種交流イベントを開催するほか、前年度実施したモデル事業の事業化を促進するため、課題解決などのフォローアップや、事業者に対して事業展開のノウハウをつかんでもらう事業を行うことにしている。

健康経営の普及

 事業主セミナーなどでは、すでに健康経営の視点で実施しているところもあります。島根県では特に男性の健康づくりや生活改善が大切です。働き盛り世代が元気でいきいきと活躍することは、健康経営における「社員の健康は重要な経営資源」と通じるところであり、少子高齢化が進む中、県にとっても重要な活力資源です。
 社員の健康に気を付けている企業に社員が集まり、その企業が成長していけば、県のイメージアップや定住促進にもつながります。県としても健康経営の取り組みが今後さらに広がるよう協力していきたいです。

県内に需要 産業の柱として期待

島根県商工労働部長安井克久氏インタビュー

--県ヘルスケア産業推進協議会を立ち上げられた経緯を
 ヘルスケア産業の育成は、ビジネスの一つとして注目している。協議会の立ち上げは、経産省の方向性に近く、全国的にも早い段階でスタートできた。商工関係だけでなく、医師会や看護協会、社会福祉協議会など医療福祉関係者の理解も得やすい内容で、健康福祉部ともうまく連携ができたと思う。
--本年度の分科会のテーマにも「健康経営」が掲げられている。
 通常、県の産業支援は県外で外貨を稼ぐことを狙いにしている。この分野は県内に需要があり、県外にも出て行けるし、新しいビジネスとして事業者を増やすという面では取り込みやすい事業だ。それをしないと数年後には、県外の事業者が入ってきて取り込まれてしまう可能性もあるので、しっかりやってもらいたいと思っている。ひと昔前の介護サービス事業と一緒で産業の一つの柱になるかもしれない。一番は県内に需要があり、数年先が見えている中にビジネスのチャンスがあり、私たちも支援しやすいということだ。
--「健康経営」の言葉は最近出てきた考え方だが。
 社員の育成にコストを掛ける企業はある面で優れている企業とも言える。そうした企業に育ってほしいと思う。健康経営というと、健康の意味が広すぎて、「健全経営」との意味に取られがちで、経営者が意味を学習しないといけない。企業としては生産性を上げないといけないが、企業の人材育成と経営資源を大事に育てていくというセットの考え方だ。経営として経営資源を大事にして育てることはいいことだと思う。そういう会社は応援したいし、そこにビジネスが生まれればさらにいいと思う。  │昨年度は「健康経営」の分野では2社が支援事業になった。
 支援事業になっているモルツウェル(松江市)は分かりやすい。ITに着目していて、県も伸ばしていきたい分野なので推しやすい。島根にはプログラミング言語のRuby(ルビィ)という資源があり、行政は人材の育成や技術者支援に積極的に取り組んできた。この島根において、技術者と企業の双方の集積が始まっており、今後さらに発展していく産業になると考えている。
--「健康経営」からつながる効果は。
 中小企業では優秀な人材を採用しにくい時代になってきている。企業の健康経営は分野を問わず整えていかねばならない問題で、県内の企業に気付いてもらわねばならない。そうなるとビジネスが生まれる。また、企業側もいい人材を集めようとすれば、福利厚生で(健康経営の)環境を整えていくことでイメージアップにつながり、リクルートにも効果的だ。
 企業経営者向けのセミナーで考え方を広く知ってもらうことが必要になってくる。

健康経営とは

 健康経営とは、従業員を企業における「資産」と捉え、健康の維持・増進が将来的に企業の収益性を高める積極的な投資であるとの考えのもと、従業員の健康管理を経営的な視点から考え戦略的に取り組むこと。従業員の活力向上や生産性向上等の組織活性化をもたらし、結果的に業績向上などにつながると期待される。
 また、国民の生活の質の向上や国民医療費の適正化など、社会課題の解決に貢献するものであると考えられている。

主唱/山陰中央新報社、全国健康保険協会島根支部

特別協賛/アクサ生命保険

後援/島根県、島根県健康福祉部、島根県商工労働部、島根県商工会議所連合会、島根県商工会連合会、島根県中小企業団体中央会、島根経済同友会、島根県経営者協会、島根県医師会、島根県社会保険協会、島根県社会保険労務士会、島根労働局

企画・制作/山陰中央新報社ビジネスプロデュース局