しまねの地域包括ケア

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人材確保と育成

切れ目のないサービスの拠点に

公益社団法人益田市医師会(狩野卓夫会長)が運営する「在宅医療介護連携・研修センター」(益田市遠田町)は2015年10月に業務を開始した。在宅医療・介護関係のスタッフがワンフロアで協働し、切れ目のないサービスの提供に努めており、益田圏域の地域包括ケアシステムの拠点施設として、期待が高まっている。

在宅医療介護連携・研修センター ( 益田市遠田町1917番地2(益田地域医療センター医師会病院敷地内))

公益社団法人益田市医師会立益田地域医療センター 医師会病院院長 狩野 稔久さん(61)

切れ目のないサービスの拠点に

センターは、同市医師会が運営する益田地域医療センター医師会病院、益田市立介護老人保健施設くにさき苑の敷地内に、総事業費約2億9700万円を投じ、建設した。鉄骨造3階建てで延べ床面積約820平方㍍。1階に訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所、2階には医療・介護実習生向けの研修室、3階は医師会関連施設職員だけでなく、圏域内外の施設職員らも利用できる在宅実習室などを設けた。
 国が進める地域包括ケアシステムへの流れを受け、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所など、分散していた在宅医療、介護関連の施設を集約して連携強化を図った。狩野院長は「ワンフロアでスタッフが連携することで、患者のニーズを踏まえタイムリーなサービスを提供できる」と説明する。
 昨年11月には、島根県医師会主催の緩和ケア研修会が2日間の日程で同センターであり、がん診療に携わる医療従事者が基本的な緩和ケアを学んだ。がん診療での地域連携を進めるうえで、退院後の外来医療や在宅医療を担うかかりつけ医の役割が大きくなっており、こうした研修の場としてもセンターは機能している。
 人材育成の観点からも、連携・研修センターへの期待は高まっている。看護や介護の実践的な研修ができるよう、在宅実習室やモデルルームを設けた。将来の地域医療を担う医療従事者や介護従事者の養成を行うべく、教育機関などからの実習生を受け入れる。
 狩野院長は、こうした学生向けの育成に加え「訪問看護師や薬剤師といった、専門知識を持つ人たちが協働し、患者に切れ目のないサービスを提供するための、連携拠点として機能させていきたい」と先を見据える。

医師が安心できる環境

医師が安心できる環境

島根県内で働く研修医や若手医師のキャリアアップを応援する「しまね地域医療支援センター」(出雲市塩冶町)は2013年3月の一般社団法人化に伴い、県内全自治体や大学、医療機関など55団体が会員として参加し、県全体で若手医師を育てる体制を整えた。  取り組みの一つが「キャリア面談」だ。将来の県内勤務を前提に、奨学金制度や地域枠入試制度等を利用した若手医師を対象に年1、2回実施。専任医師とセンター職員が県内外を問わず出向き、キャリア形成に向けた個々の希望に応えるプランづくりに協力、県内への定着を呼び掛ける。
 14年度の対象者は100人。面談を担当する島根大病院卒後臨床研修センターの鬼形和道教授(55)は「地域でリーダーシップを発揮する人材を育てたい」と地域包括ケア推進の担い手として期待を寄せる。
 支援センターの役割はもう一つある。県内どの医療機関に勤務していても質の高い研修を受けるための調整役だ。今月3日には県内七つの初期臨床研修基幹病院を一同に集めた連絡会を初開催。2年後に迫る新専門医制度移行へ向け県内の病院が連携するプログラムづくりも支援する。
 県内病院への初期臨床研修医の充足率は15年度57%で、5年前と比べ26ポイントも改善するなど明るい兆しも見える。支援センターの吉川敏彦事務局長は「1人でも多くの若手医師に島根に軸足を置いて研修、勤務してもらうため、安心できる環境をつくる」と強調する。

※新専門医制度
2017年度から開始予定の新制度。
今まで各学会が独自に認定していた専門医を、日本専門医機構が評価・認定を行い、専門医の質を高め制度の標準化を図る。

看護師、歯科衛生士、薬剤師らの支援

医師が安心できる環境

地域包括ケアシステムの構築は、医師とともに患者を支える看護師や歯科衛生士、薬剤師らの存在なしには語れない。退院後の受け皿となる現場が抱える問題は医療全体の質にも影響するため、看護師らの人材確保と育成が欠くことのできない要素だ。
 島根県内の看護師数は1万1751人(2014年12月)。10年前と比べ約1500人増加する一方、患者の高齢化や医療の高度化によって、看護現場に求められる負担が増す中、人材増の恩恵を見いだしづらい現実がある。
 県看護協会(松江市袖師町)は、職場を探す看護師と病院を結ぶ「ナースセンター事業」を展開。昨年は県内8市町のハローワークなどを拠点に就業相談会を開催し、133人が利用した。しかし、求人と求職のマッチングは思うように進んでおらず、同協会の春日順子会長は「看護師が安心して働ける職場の環境づくりが急がれる」と話す。
 同協会は、訪問看護師の研修にも取り組む。本年度は、訪問看護の基礎を学ぶ「初級コース」と、訪問看護の現場から具体的事例などを情報共有する「中級コース」を実施し、延べ300人以上が参加。訪問看護師の技術向上や連携強化を図り、在宅看護のニーズの高まりに対応している。
 歯科衛生士の場合、口腔ケア需要の高まりなどで人材確保に懸命だ。島根県歯科医師会(同市南田町)は13年、結婚や育児で離職した歯科衛生士の復職への不安を緩和するため、口腔ケアやインプラント治療など最新医療などについて学ぶセミナーを開始した。
 県内唯一の養成校の県歯科技術専門学校(同)は、県内の高校に入学の働きかけを強化するとともに、西部と隠岐出身の学生に生活支援を目的に年20万円の学費を補助する制度を創設している。また、県内外の歯科衛生士を目指す学生らを対象に体験ツアーも企画。県西部の歯科医院などで3日間学んだ同専門学校1年の上野未夢さん(19)は「現場の様子を知り、就職に向けて参考になった」と話す。
 人手不足の課題は薬剤師も同じ。島根県薬剤師会(同市千鳥町)によると2012年12月末時点で、人口10万人に対する薬剤師数は172・4人。全国平均の219・6人を大きく下回る。同薬剤師会の陶山千歳専務理事は「高校生らが薬剤師という職を知る機会が少ない」ことを理由の一つに挙げる。
 こうした状況を受け、同薬剤師会は昨年12月、高校生を対象に薬剤師になる方法や仕事内容を紹介するセミナーを初めて開催。山陽方面の大学の薬学部担当職員を招き、学部紹介や個別相談にも応じ、生徒ら約150人が参加した。また、薬学部で学ぶ島根県出身者の実務実習を地元で受け入れる「ふるさと実習」も推進。陶山専務理事は「薬剤師の絶対数を増やし、地元就職を呼びかけていきたい」と話す。
 医療を支える「チーム」として、看護師や歯科衛生士、薬剤師らのスキルアップと人材確保が地域包括ケアシステム構築に向けた大きな役割を担うだけに、それぞれの現場で地道な努力が続く。

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